オリンピアサンワーズのblog【2005-2017】

2015年7月某日。大阪。N陸上競技場。
女子800m予選。
スタートラインに立った彼女は不安だった。
走るとまた足が痛くなるかもしれない。
400mのトラックを2周、
無事に走り切れるかどうかわからなかった。
だから彼女は、スタートしてからも
ゆっくりめのペースで、慎重に、
自分のカラダの様子を見ながら走りはじめた。

トラックを1周したとき、彼女は最後尾につけていた。
そして、不思議な感じがしていた。

「足痛くない……走れるかも！」

彼女は思い切ってスピードをあげてみた。
前を行く選手たちをスルスルと追い抜いた。
800mを走り切ってゴールする。
記録2分18秒07。
自己ベストを2秒近くも更新していた。

チームの元に帰ると大騒ぎになっていた。
みんな驚きと興奮でワイワイ言っている。
とりわけ顧問の先生が一番に驚いている。

「Tさん！すごい！自己ベスト更新するなんて！」

先生は彼女のことを心配していた。
彼女はずっと足の故障を抱えて苦しんでいたのだ。
ここ最近の練習もほとんど走れていなかったのだ。
今日の試合だって出場するかどうかわからなかった。
そんな彼女が、たった今、
目の前を「流れるように」走っていったのだ。
しかも、自己ベスト記録を更新して！
一体、彼女はどうしたんだ！
興奮した先生が叫ぶように言葉をつづける。

「Tさん、決勝行けるよ！
　まだ走れるかい？走れるかい？」

はい、走れます、と彼女は答える。

女子800m決勝。
彼女の姿がふたたびトラックに現れる。
今大会2回目のスタートラインに立つ。
足元には真新しいスパイクシューズ。
2日前に手に入れたばかりだ。
さっきの予選ではじめて履いた。
誰にも見えないけど、
中には自分だけのインソールが入っている。

「先生はすっごく驚いてた。だけど……」

スパイクシューズを見ながら彼女は思う。

「あんなタイムで走れるなんて。
　一番驚いてるのは、きっと私だ」


そう、この試合の2日前。
中学2年生のRNちゃんは、
初めてオリンピアサンワーズにやって来ました。


（つづきます）